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【薬師寺】1300年前の奈良時代の鋳造技術に驚愕【東塔の水煙】

大阪・関西での暮らし

薬師寺には「凍れる音楽」として知られる、奈良時代建造の東塔があります。
流れる音楽の一瞬の時を切り取った、そんな容姿のため、そう呼ばれています。
その東塔は現在一時的に解体されていて、2020年の完成を目指し修復工事中です。

そのため、残念ながら建物が立っている姿を見ることはできません。
しかしながら解体修復のため、普段見ることができないものが間近で見ることができるまたとない機会となっています。

今回、この東塔に備え付けられている水煙(すいえん)というものが薬師寺にて期間限定で公開されると聞き、これは見なければと思って奈良まで行ってきました(この公開は終了。GW中に修復工事の現場見学会が実施予定)。

1300年前の奈良時代の人々が当時の最先端技術で作り上げた水煙ですが、劣化が進んだため、この水煙を取り換えることになったのです。

平成の時代に作られた、新たな水煙。
はたしてその出来栄えは?

皆さんもこの水煙を見る機会があれば、1300年前の技術に驚愕することになるでしょう。
この記事で私の感動がうまく伝えられたらと思います。

水煙とは?

寺の塔の一番上には、相輪という金属でできたものが飾られています。
例えば五重塔を想像してもらえば分かると思いますが、頂上に輪のようなものが重なった棒状の物がありますよね?
それが相輪です。

薬師寺の西塔
一番上にあるのが相輪(薬師寺の西塔)

相輪は色々な部位で構成されているのですが、上の方に横に突き出た炎のような形をしたものがあります。
これが水煙です。

炎を模したものではありますが、火事を恐れるために火炎とは言わず、水煙と称されています。
ならば水を模したものを作ればいいのにと思いますが、仏教的には炎でなければならないのでしょう。

「炎でなければならないが、火事が怖い…。よし、水煙と呼ぼう!」
と誰が言い出したかはわかりませんが、そうなったようです。

まるで言葉遊びですが、昔の日本人は真剣でした。
言葉には魂が、そして力があると信じ、火炎と名づけたら実際に火事が起きるだろうと思うほど、言葉を恐れていたのです。

このような由来がある水煙ですが、このたび薬師寺の東塔の修復工事の際に新調されることになりました。
思えば風雨に耐え、よく持ったものです。
1300年前の銅製の鋳物ですよ?信じられません。

それでは平成に新調された水煙とはどのようなものでしょう。
奈良時代の水煙と違いがあるでしょうか?
現代の職人と1300年前の職人の真剣勝負です。

白鳳創建水煙v.s.平成新鋳水煙

1300年前の奈良時代に作られた東塔の水煙は、奈良時代より少し前の白鳳時代の特徴が見られるので「白鳳創建水煙」と薬師寺では称しています。
対して、平成に新しく鋳造された水煙は「平成新鋳水煙」といいます。

白鳳創建水煙と平成新鋳水煙
左が「平成新鋳水煙」、右が「白鳳創建水煙」

白鳳創建水煙

東塔の建立時に作られた水煙には、前述したように、白鳳時代の特徴がみられます。
その特徴は一言でいえば、大らかさでしょう。

仏教文化伝来元の大陸的な雰囲気が弱まり、日本的な「やわらかい」大らかさが加わりました。
見てると安らぎを感じるような様式です。

白鳳時代の特徴が見られる水煙
楽し気に笛を吹いている様子(白鳳創建水煙)。これが1300年前のものとは驚き。
白鳳創建水煙の飛天
空から舞い降りる飛天(白鳳創建水煙)。「あらよっと」と声が聞こえてきそう。

笛の音に誘われ、舞い降りる飛天たち。
ぽかぽか日和の日差しのような、そんな暖かさを感じる水煙です。
これだけ大きくて細かい意匠のものを、1300年前に鋳造できたとは驚きです。

この白鳳創建水煙は見たところ、それほど傷んでいるようには思えなかったのですが、錆がでていることからかなり劣化が進んでいるのでしょう。
今回の修復工事で、引退です。
地上の展示スペースでのんびりと余生を過ごしてくださいね。

平成新鋳水煙

それでは、次は平成新鋳水煙を見てみましょう。
2020年の完成の際には、東塔の頂点に飾られます。

銅で新しく鋳造されたのでピカピカのはずなのですが、なぜか錆だらけです。
実はエイジング加工がされていて、1300年経った白鳳創建水煙と同じように仕上げられています。

平成新鋳水煙の笛吹
どことなく緊張を感じる笛吹(平成新鋳水煙)。練習不足かな?
平成新鋳水煙の飛天
急降下中のような飛天(平成新鋳水煙)。バンジージャンプ?

パッと見は白鳳創建水煙と同じようですが、平成新鋳水煙は大らかさが薄れ、硬い印象を受けます。
白鳳時代を模してはいますが、雰囲気がありません。

鋳造技術が発達した現代でも、1300年前に作られた鋳物を復元するのに大変な苦労をしたと聞きました。
それだけ、当時の職人の技術が素晴らしかったのです。

平成の職人たちは寸分たがわずに復元することに精一杯で、魂をこめることまではできなかったのかもしれません。
そのため大らかさが失われてしまったのでしょう。

エイジング加工にも疑問があります。
今回の東塔の修復においては、建物自体は漆喰などが塗りなおされたりして全体的に新しい雰囲気になるはずです。
壁にはエイジング加工はされていないでしょう。
それなのに、なぜ水煙を含む相輪をわざわざエイジング加工するのか。

日本では、式年遷宮のように全く新しく作り直すのが伝統のはず。
水煙も新しいまま東塔の頂上に納めればいいと思うのですが。
まあ、東塔すべてを新しくするのは抵抗がありますので、もし古いままの姿にしたいのなら、水煙だけでなく壁などもエイジング加工するべきです。
水煙だけが古いのでは、ちぐはぐな印象をうけるでしょうに。

白鳳創建水煙の圧倒的勝利

まるで歌声が聞こえてきそうな水煙を作った、奈良時代の職人技には平成の職人もかないません。
そもそも1300年も持った時点で、白鳳創建水煙の勝ちは決まっていましたね。

はたして平成新鋳水煙は1300年後もその形を保っているのでしょうか?
あえてエイジング加工をした影響が出なければよいのですが…。

さて、2019年のゴールデンウィーク中(4/27~5/6の午前10時から午後4時まで)、東塔の工事現場の見学ができます。

間近で東塔が見られる最後の機会でしょう。
白鳳創建水煙も展示されていると思われます。
気になる方はこの期間中に薬師寺を訪れてみては?

https://www.nara-yakushiji.com/

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